当時の歯科技工士の環境

メタルセラミックス陶材の色調再現のための色配合が複雑になるにつれ、熱膨張率等にも問題が生じ、数々の材料を混ぜて改良しながら使うことは非常に困難な作業でした。Gellerは、こういった実験をしていくことで、これにより多くのことを感じ取ったり、学んだりすることが出来ました。その頃から歯科産業も少しずつ歯科医師方面だけではなく歯科技工からの影響を受け、歯科技工士にも目を向けて行きます。Gellerは言います。「とはいえ、残念ながら当時、我々技工士は人として扱われてはいない時代でした。」

また、Gellerは ZERO Vol.12, No.2 Spring 2013の紙面の中で以下のことを語っています。「尊敬 する 歯科 技工 士 · 歯科 医師 や 、 影響 を 受け た 人はいますか？」というMr. AIibaからの質問に対して、「影響 を 受け た 歯科 技工 士 は あまり い ませ ん でし た 。 なぜなら 、 当時 は 歯科 技工 士 に ステージ ( 講演 する 機会 ) が 与え られ ませ ん でし た ので 、 有名 な 歯科 技工 士 が いな かっ た の です 。 ですから 、 尊敬 する 歯科 技工 士 に 出会う 機 会 が あり ませ ん でし た 。」

この話を聞くと、現在ではヨーロッパは世界の中でも革新的なイメージがありますが　当時のヨーロッパにもその様な時代があったのだと言う事がわかります。

Gellerが最初に勤めていた技工所での以下の逸話を語っています。

「私は、雪が降る日も、雨が降る日も天気の良し悪しに関わらず、片道40分かけて自転車で出勤していたのですが、ある日私が朝ラボに着くと、ボスは技工机にうつ伏せになって寝ていました。信じらせません。当時は理解できませんでした。 私は、ただ、「おはようございます」とだけ言ってラボに入り、彼に（なぜラボで寝るのか）決して聞きはしませんでした。もしかしたら、彼は私にその姿を見せていたのかもしれません。彼は、見かけが良く、ハンサムでした。昼夜仕事をしていました。仕事が深夜まで及び、仕事をしながら寝てしまったのかもしれません。

また、現在とは違って、技工士だけの講演会という物も存在していませんでしたし、歯科産業も少しずつ（歯科医師方面だけではなく）技工からの影響を受け始めていました。そう言った状況の中で、Gellerは数少ない実験をしている技工士だったのですが、当時、我々技工士は人として扱われてはいませんでしたという時代でした。

 また、当時のヨーロッパでの別な背景としては、1956年の「ハンガリー動乱」により、教養のある人々が国外へ脱出し逃げてきた歯科技工士が、Gellerの所へ来て「歯科技工を教えてほしい」という時代でもありました。ヨーロッパにはまだまだ平和は訪れてきません。