Founder

oral design

「 oral design 」 という の は 、 Geller が 歯科 技工 という 職業 に 誇り を もち 、 愛する 歯科 技工 士 の 中の一 人 で ある という 意識から始まり ます 。この「 oral design 」を名乗る動機は、強い言い方をすれば、いわば 歴史 的 な “ 借 り " を 返す という ことでもありました。 それ は 私 たち の パートナー で ある 歯科 医師 と の 関係 における 虐げられたポジション的な“ 借り ” のことです 。しかし、それは復習とかそいうものではなく、本来の姿を取り戻すというニュアンスに近いものです。

私 たち(Geller) より 前 の 世代 の 歯科 技工 士 という の は 、まったく 影 の 存在 でし た(今でもそういう傾向はありますが） 。患者 が 訪ねる の は歯科医院であり、対面するのは 歯科医 師 だけ で す。歯科 技工 という 職業 が 存在 する こと さえ 知り ませ ん でし た 。 そこで当時の Geller は 、 今 こそ 歯科 技工 の 仕事 を 定義 すベき だ と 考え 、それ を 「 oral design 」 と 定義 しました 。当初 Gellerは、このグループ を 組織 する よう な こと を 意図 した もので はなく、私 たち の 歯科技工という仕事 を 広く 一般 に 知っ て もらう こと だけ を 考え 、定義 しました 。

「歯科 医師 は 通常 、 私 た ちが製作したもの を 装着 する だけ です 。 もの を つくる、創造的に仕事をするのは私たち歯科技工士だと思います。私 たち は デザイナーなの です 。」

Willi Geller

Gellerは、歯科技工という仕事をしながら、ある疑問に行き当たります。我々が美容院に行けば、美容師は我々の要望を聞き、我々の頭の形、髪質を確認し見極め、顧客の要望を受け入れ、顔貌に合わせたヘアースタイルを作り出します。それに対して我々の仕事は、歯科技工は歯科医師からの紙の指示書だけで患者の模型が送られてくるだけという状態です。1982年、そんな事務的な仕事の在り方に Gellerは大いに疑問を感じ、我々歯科技工士も患者に接し、患者の顔貌、口元、個性に合わせた補綴物、審美歯科を行うべきだと感じ、それらを総称して「oral design」と提唱しました。しかし、この提唱に対して理解を得られることは、とても容易なことではありませんでした。しかし、Gellerは、歯科界の壁に屈せず「良い補綴物とは何か！？」を歯科関係者に投げかけ続けました。

今日、我々歯科技工の仕事で、患者が技工室を訪れる様になったきっかけは、1984年から始めた彼の提唱しているoral designの始まりからであり、世界の歯科技工士は彼の行動の恩恵を少なからず受けています。 それ以前の歯科医師は患者と技工士が接触することをあえて避けていました*１。それはスイスに限らず世界的な歯科界の しきたりでもあり、いまだにそれは世界的に残っている風習でもあります。しかし、Gellerは、患者のために調和する色調再現、顔貌、口元に合わせた補綴物の再建を行うために患者に立ち会う必要性を早期から認識し、提唱していました。

余談ですが、歯科技工の比較的技術の先進国である1990年ごろの日本では、シェードテイキングに歯科技工士がおこなうべきか？、歯科技工士がおこなっていいのか？、歯科医師がおこなうべきか？という真面目な議論が行われていました。日本はまだまだ保守的な時代でした。いまだにアジア独特の保守的な部分は引きずっています。

*１　

歯科医師が患者と技工士が接触することをあえて避ける考えられる理由は、

１）学歴的に歯科技工士は患者の前に立てる地位では無いこと。

２）歯科技工士は陰の存在であるために、身なりにあまり気を使わず患者の前に立てる存在ではなかったこと。

３）歯科医師の治療の不備があった場合、歯科技工士がそのことを患者に告げられるかもしれないから。

４）治療費の中の安い技工料金を患者に知られたく無いため。

これらの事柄が考えられます。これらの歯科医師の考えは現代においてもあまり変わってはいません。

余談ですが、Geller は上顎前歯部（前歯６本？）のポーセレンクラウンのケースの歯科医医にて患者に装着時の立ち会いでの出来事です。Gellerはその補綴物が、スマイルライン等の診断により、その患者の口元に調和していると判断をしましたが、患者は中切歯が長いと訴え、いつも彼と仕事をしている歯科医師は治療側（歯科医師と歯科技工士側）の立場でこの補綴物のデザインの説明を怠り、患者側に立ってこの補綴物の切縁の長さのことでGellerを責めました。Gellerはそのことに腹を立て、患者の口から補綴物を外し、床に投げ捨てそれを踏み潰し、歯科医院を後にしてきたという逸話があります。

別なケースでは、同じように歯科医院で上顎前歯のセットに立ち合います。患者は彼が制作した補綴物に満足し喜びます。歯科医師もこれに満足しています。Gellerはこの技工料金に対して歯科医師に提示します。しかし、歯科医師はそんな高い料金は払えないとGellerに言います。そこで、Gellerは患者に対して「ではこの補綴物を外して持ち帰りますが、それでよろしいですか？』と問いかけますが、患者は「はい」というはずはありません。その様子を見て歯科医師はGellerに正当な技工料金を払うしか無くなりました。このようにGellerは我々の知らない処で歯科技工士の地位を築く為に戦ってきました。

その後、Schärer 教授はウィリー・ゲラーをヨーロッパ審美歯科アカデミーである EAED の名誉会員として受け入れています。これは歯科医師が技工士を認めたという事でもあり、素晴らしい出来事であり、「oral design」の定義が実った瞬間でもありました。

もちろん、oral design からファッション性をも打ち出したかったからでもありました。またこのファッション性を過度に入れると何の講演なのかが解らなくなります。Gellerはそういったバランスにも気を使いながらの講演スタイルをおこなっていきました。

＊当時はこういった写真を出す講演方法に対して万人に受け入れられたわけではなく、嫌悪感を表す人たちもいました。やはりその写真らは学術的な部分から外れているという考えと、性的なものをイメージさせるという古い硬い考えからでした。しかし、この講演方法は現在でもなくなりませんし、歯科技工士だけに留まらず多くの歯科関係者がこの手法を用いて講演を行なっています。

余談ですが、世界でも有名な日本の映画監督小津安二郎のカラー映画には、赤が計算されて使用されています。Willi Gellerは小津安二郎の影響を受けているとは思いませんが、赤い唇、oral designのロゴの赤の使い方が講演上で上手く使用されており、手法は共に似ており、聴衆に効果的にインパクトを与えていることが理解できると思います。

彼はこう言った刺激的な写真にばかり特化して話題になりますが、講演中の築盛ステップの中で、食紅で陶材に着色し必ずその国の国旗を模して築盛したクラウンの写真を挿入し、各国の聴衆の心を掴むということも積極的に行っていました。

話は前後しますが、Geller がoral designを提唱する4年前 1978年にVita 社からポスターを製作しました。 Geller の製作した補綴物が印刷されているそのポスターは、初めてWilli Geller の名前のイニシャル「W.G」が入りました。W.G. とほんの小さく入れただけのものです。ヨーロッパでは中世、 ルネッサンスが始まる13世紀より少し前から芸術家が名前をもつようになりました。 それ以前のゴシックやロマネスク芸術の時代には名前などなく、単なる職人にすぎませんでした。歯科技工士の場合は、 20世紀になってもまだ名前がなくて、Geller がポスターに 「W.G」を入れて、 やっと名前を持つようになりました。