ZERO Vol.10, No.1 Winter 2011 page 6 ~ 9

 


Special Interview

 

Mr. Willi Geller

 

歯科技工をく語る

 


2010年10月、ポーセレンの神様Mr. Willi Gellerが再来日。

勢力的に講演・実習会活動を行なった。

多忙な時間をさいて、

小誌代表・片岡茂雄のインタビューを受けていただいた。


聞き手

片岡繁夫

ZERO publishing 代表

 

通訳・監修・写真提供

相羽 直樹 Science Art, inc. / Oral design Center Monterey

 


日本の歯科エ士 · 歯科 工 技術 の レベル

 

片岡 :秋 の 日本に再び 来日して いただき ありがとうござい ます 。 再会できたこと 、とてもうれしいです 。

 今回 の来日 で 、 日本を楽しんでい ますか ?

 

Geller:私は何 度 も 日本 に 来 た こと が あるのです が 、 今まで で 一番 楽しい 時間 を 過ごしてい ます 。 招いていただい た 関係機関 の方々に お礼を 言いたい です ね 。それに 、 あなたに再会 でき た ことも うれしく思い ます 。

 

片岡:さて 、 多忙な 中 、 インタビュー の 時間 をいただきありがとうござい ます 。 早速 いくつ か の 質問 を 投げかけたい と思い ます 。まず 、 日本 の 歯科 技工士 を どう 思い ます か 。

 

 Geller:日本の歯科 技工士の 方々 は 、 素晴らしいです 。今回 の 実習 会で も 、 たくさんの 方々 に 受講 して いただきました が 、 みなさん が 信じ られ ない くらい 素晴らしいことがわかり まし た 。

日本 で 実習 会 を 開くといつも思うの です が 、 なぜ 、 彼ら に 私 の テクニックを見せ なけれ ば ならない の か 、 意味がわかりませ ん 。 ( 笑 ) そして 私 自身 も 、 みなさん から たくさんの こと を 学んでいる の です 。

 

 片岡 : ありがとう ござい ます 。 日本 全国 の 歯科 技工士たちの 励み に なり ます 。その 彼ら の 歯科 技工 技術 自体 も 、 低く は ない と 思わ れて い ます か 。

 

 Geller : 日本 の 技 エレベル は 非常 に 高い と 思い ます 。

 

 

 私自身 も 、 みなさんからたくさんの ことを 学んで いる

 

 "手作り" という の は とても 、 素晴らしい 仕事

 

 

歯科 技工 は しい 仕事

 片岡: Mr. Geller は 、 今年 で 70 歳 に なら れ まし た 。 長年に わたり 、 ポーセレン の 臨床 と 開発 に 精力 を 注が れ て います 。 歯科 技工 は 楽しい です か 。

 

 Geller:私 ですか ? 私 は 、 この 仕事 を 非常 に 美しい 仕事 だ と 思っ て い ます 。 特に 、 “ 手作り ” という の は とても 、 とても 素晴らしい 仕事 です創造 という もの に は 、 患密 ん から の きな ニーズあり ます し 、 人 ( 患者 さん ) の た め に 何 が できる というのは 、 とても ユニーク で 、 大切なことと 思っ て います 。

 

 

 

 


 

 自国 の 歯科工 は 自国 で

 

片岡: 現在 、 私 たち 歯科 技工 士 が おか れ て いる 状況 の 中で 、 トピックス を どう 考え て いらっしゃい ます か 。

 

Geller: 私 は この 職業 の クオリティ ( 質 ) を 少し 心配 して い ます 。

 

ジルコニア です とか 、 新 材料 が どうのこうの という こと で は あり ませ ん 。材料 や 機械 は これから も つねに 新しいもの が 出 て くる でしょう 。最近 の トピックス の 一つ である ジルコニア にしても 、これ で 最後 で は ない でしょう 。私 の 悲しみ の 種 は 、 もっと 社会 的 な ところ に ある のです 。

 

それ は 、金銭 的 な 利益 だけ の ため に 、 私 たち の 仕事が海外 に 行っ て しまう という こと です 。これ は 、とても 悲しい こと です 。

 

ほんの 少し の 儲け の ため に 海外 に 仕事 を 出す という こと は 、 自国 の 患者 さん の こと を 全然 考え て い ない の で は

ない か 。 海外 に 補綴 装置 を 発注 し て いる と 、 自国 の 歯科技工 士 たち が 失業 し て しまう の で は ない か 。 海外 に 発注する こと が 、 自分 の 国 の ため に なっ て い ない という ことを 知ら ない で やっ て しまっ て い ます 。

 

 補綴 装置 を 海外 に 発注 する の は 歯科 医師 です から 、 歯科大学 で 将来 の 歯科 医師 の 方々 が 社会 的 に 自分 たち が 何

 を す べき か 、もっと 学ぶ べき で あり、 歯科 大学で きちんと 教える べき です 。

 

今日 学ぶ べきこと は 、 技術 や 材料 だけ で なく 、 職業人として の 社会 的 責任 な の です 。この こと は 、 日本 だけ の 問題 で は なく 、 世界 的 な 問題に なっ て き て い ます 。 この まま 続け て いく わけ に は いきませ ん 。

今日 学ぶ べきこと は 、 職業人として の 社会 的 責任 

 

 

歯科工士と歯科医師 の コミュニケーション

 

片岡: 日本 で も 補綴 装置 の 海外 発注 について は 問題 になっ て い ます 。

 

 さて 、 Mr . Geller は 以前 より 日本での 講演会 · 実習会をされ 、 日本の歯科 技工 士 のことを 理解 していただい てい ます 。 日本の 歯科技工士 が 今後 、 より よい 補綴 装置 を製作 する ため に 大切 な こと は どんな こと だ と 思い ますか 。

 

Gellerそうですね 、 私が 日本の情況で気付くことといえ ば 、日本 で は 、歯科 技工 士と歯科 医師のコラボレーション ( 協力 ) が 足り ない よう な 気 が し ます 。 その あたりは 、もう少し 努力して も いい の で は ない でしょ う か 。歯科 医師 と 歯科 技 エ 士 が もっと コミュニケーション を とること により 、 生産 性 も 高まり ます し 、 お互い を 尊敬 し合う こと が でき ます 。

 

これ は 先ほど述べ た 、 海外 に 仕事 を 出す 歯科 医師 の 考え方 に も つながり ます が 、そういう こと を 改善 し て 、歯科 技工士 と 歯科医師 が 一緒 に チーム に なっ て 、 お互い 理解し 合い 、 尊敬 し 合っ て 、 補綴 装置 を 作る 、患者 のために 働く こと で 日本 の 歯科 医療 の クオリティ も ぐんと 上 がること でしょ う 。

 

 繰り返し に なり ます が 、 海外 に 仕事 を 送り出し て いて 、 どう やっ て 若い 世代 に 歯科 の 仕事 を 教え たり 、 歯科業界の将来を語ることができるでしょうか。日本人歯科技工士は、 世界中で尊敬されています。これは、日本の歯科技工教育が整っていること、 片岡さんのようにポストグラデュエートの学校を作り、優秀な歯科技工士の輩出に努力していること、 歯科技工士たちが、こうした講演会や実習会にまじめに参加していることが原因でしょう。

 

けれども、とても複雑な社会の中での仕事を強いられることによって、実力のある優秀な日本の歯科技工士は海外に出て行き、 その出て行った歯科技工士が、世界中で活躍し、重宝されている。 こんな国がほかにあるでしょうか。とても残念な状況です。

 

日本という国は、世界的なトップセラミストを生み出しながら、彼らは海外で暮らし、活躍する道を選ぶことになる。これほど多くの優秀な日本の歯科技工士が海外に出て行くことの損失を、 日本の歯科医師の方々はよくよく考えるべきです。

 

 

たちの仕事には、何が大切なのか考えなおす時期

 

片岡 : とてもありがたいお話ですね。 ただ、それはやはり、Mr. Gellerがいて、山本 眞先生がいて、そういった方々がいたからこそ今の若い世代があるのであって、 それがなければなかった。

 

Geller :  そういうことは昔のヨーロッパにもありましたが、今はもう消え去ろうとしています。

 

グローバリゼーションの中で、世界はお金だけに価値を置くようになってしまっているように私は危慣するのです。このことが、歯科界にも大きく影響していることは事実です。

 

本来、主流になるべきではないこうした価値観で進んでいってしまった後、ある朝起きたとき、 お金が価値のないものと気づいたときには、いったいどうなってしまうのでしょう。

 

今だからこそ、もう一度、私たちの生活には、私たちの仕事には、何が大切なのか考えなおす時期にきていると思います。

 

片岡 : すごい! その通りです。

 

歯科工界は国際的なコミュニケーションで伸びていく

 

片岡 :私たちが今置かれている状況は決して生やさしいものではありません。 しかし、つねに未来をみて生きていくべきだと思いますし、 また未来は暗いだけのものではないと思います。

 

今後、私たちが、よりよき歯科技工を目指していくため、技術を学ぶコツを含め、どう考えますか。

 

Geller 国際的なコミュニケーションが必要だと思います。世界的に、コミュニケーションをもっと円滑に図ることが、非常に大切です。

 

ほかの国から、たとえばアジアの国々から学ぶ、 欧米から学ぶ、そうしたことがとても大切だと思います。 どんどんほかの国から刺激を受けてください。 そうして、お互いが切礎球磨して、 技術というのはだんだん伸びていくのではないでしょうか。

 

片岡 :感動です。 ありがとうございました。


 

 

片岡繁夫氏は、「ZERO:2011. Vol.10 No.1 冬号」に、Willi Geller氏の立ち止まることのない歯科への探究心と、技術の進化について述べ、日本の若者にもGeller氏のこの姿勢を学ぶ様にこの誌面を通して述べている。

 

EDITORIAL BOARD

 

20歳代、山本 先生のもとでセラミックスの基礎技術を学んだ。

 

30歳代前半、アメリカでの修行にて、セラミック技工の楽しさを経験、無心でたくさんのセラミック技工を手がけ、技術向上のための力を身につけることができた。30歳代で培ったセラミック技術が、40歳代のトレーニングセンターでの教育の力となっている。

 

しかし、自身60歳になった今、50歳代でやるべきことが、少し足りなかったように思う。

 

今、多くの優れた若いセラミスト達が技工業界をにぎわせている。

 

欧米の個々の歯科技工士は、技工のさまざまな知識レベルは高いように見受けられる。だが、日本のセラミック技工のレベルは世界中でもトップクラスであろうし、歯科技工技術の平均レベルは間違いなくトップであろう。

 

日本の若い歯科技工士、特にセラミック技工は優れた技術をもち、技術的に到達している部分もあるがゆえ、そこで立ち止まらず、さらなる大きな目標に向かって技術と知識をパランスよく進化させてほしい。

 

そうしたセラミスト達の「次世代での肥やしになっているか」という自身への問いかけは、必要ではなかろうか。

 

技術の結果論だけで技術者の評価はされるべきではなく、確固たる独自性に裏打ちされた技術を見せることも大切であり、そのことが自身の次につながる肥やしとなるのではなかろうか。

 

巨匠、Willi Geller氏は70歳になるが、近年日々の臨床を行うラボをさらなる理想とするラボに作り替え、臨床技工の傍ら世界中を周り、セラミストに夢と希望を与え、いまだ進化を続けている。

 

50、60歳代に独自の技術に満足することなく、自身の技術を進化させるためのセラミックスをも開発し、自身が次へ進化するための力を蓄え続けている。立ち止まることなく蓄えた多大な力があるからこそ、リタイアの年にもかかわらず今もなお、『かっこいい』生き方ができるのであろう。

 

 

そんなGeller氏が昨年10月、横浜において行った、前代未聞の総勢60名の実習会は壮快であり、氏の力をまざまざと見せつけられた出来事であった。

 

さらに、ポジフィルムでのスライド映写の講演は、Geller氏独自のこだわりの表れであり、作られたコンピュータ映像ではなく、セラミスト · Gellerの作った生症例を示した講演であった。

 

まさしくセラミック技工への強い哲学をもち、独自性に裏付けされた、確かで、かつ感性豊かな技術をもつ、真のセラミストの成せることではなかろうか。

 

セラミストと呼ばれる若い歯科技工士のみなさん、大いなる力があればこそ現状に満足せず、次の世代の見本となるべく、立ち止まらずに進化していただきたく思う。

 

私自身も、さほどの進化はないものの、次の70歳を『かっこよく」生き抜くための力を蓄えることのできる、60歳代の日々の生活としたい。

 

本誌ZEROも当初の目的である、「歯科技工の教科書」となりうるべく、しっかりとした誌画作りに励み、求められるZEROにしたく思います。

 

何卒よろしくお願いいたします。

 

ZERO publishing  片岡繁夫

 

 

 

昨年 10月、「坂清子先生を慕う友人によるお疲れ様の会」にて、今日のセラミック技工の基礎を成し、それぞれが目標とされるテクニシャンであり、いまだ進化を遂げている面々である。 私も進化し続けられるテクニシャンでありたい。